インフルエンザワクチンの種類について

インフルエンザの予防接種には、従来からある「注射タイプ(不活化ワクチン)」と、2024年から日本でも使えるようになった「点鼻タイプ(フルミスト®)」の2種類があります。それぞれ効き方や対象年齢が異なるため、特徴を知ったうえで選んでいただけるよう、わかりやすくまとめました。

1. 注射タイプ(不活化HAワクチン)

もっとも広く使われている、皮下注射で接種する従来型のワクチンです。

  • 仕組み:インフルエンザウイルスから感染力を取り除き、免疫のもとになるタンパク質だけを取り出して作られています。ウイルスそのものは含まれていないため、接種してインフルエンザにかかることはありません。
  • 効果:血液中に抗体(IgG抗体)を作り、ウイルスが体の中で増えるのを防ぎます。発症そのものを防ぐ効果に加え、肺炎や脳症などの重症化を防ぐことが主な役割です。
  • 効果の続く期間:接種後2週間くらいから効き始め、およそ5か月程度効果が続くとされています。
  • 対象年齢:生後6か月から接種できます。13歳未満のお子さんは、2〜4週間あけて2回接種するのが標準です。
  • メリット:長年使われてきた実績があり、安全性の確立したワクチンです。妊娠中の方や持病のある方にも接種できます。65歳以上の方は定期接種(公費の助成)の対象になります。
  • 注意点:注射のため、腕の痛みや腫れが出ることがあります。また、のどや鼻の粘膜での防御力(感染そのものを防ぐ力)は限定的で、主な役割は重症化予防です。
  • 製剤について:1本の瓶から複数回分を使う「バイアル」タイプと、1回分があらかじめ注射器に入った「プレフィルドシリンジ」タイプがあります。プレフィルドシリンジタイプは、防腐剤(チメロサール)を含まない製品を選べる場合があり、妊娠中の方やアレルギーが気になる方に向いています。

チメロサールって何?

チメロサールはエチル水銀チオサリチル酸ナトリウムという有機水銀化合物で、重量の約49.55%が水銀です。水溶液中で速やかにエチル水銀水酸化物・エチル水銀塩化物に分解し、微生物の増殖を防ぐ防腐剤として働きます。エチル水銀は、環境汚染で問題となるメチル水銀とは異なる化合物です。血中半減期はメチル水銀の約50日に対し、エチル水銀は7〜10日と短く、体内に蓄積しにくいという違いがあります。

安全性に関するエビデンス

チメロサールと自閉症スペクトラム障害(ASD)や神経発達異常との関連は、大規模な疫学研究によって繰り返し否定されています。125万人超のコホート研究と約1万人の症例対照研究を統合したメタ解析では、チメロサール曝露と自閉症の関連は認められませんでした(オッズ比1.00、95%CI 0.77–1.31)。米国小児科学会(AAP)も、チメロサール含有ワクチンがASDのリスク増加と関連しないことを明言しています。

一方で、これとは異なる立場の総説も存在し、低用量チメロサール曝露と特定の神経発達障害(チック障害など)との関連を示唆する観察研究があるとする報告や、発達期における安全域が十分検証されていないとする批判的レビューも文献上は確認されます。ただし、これらは主流の疫学的合意とは一致しておらず、AAP、米国アレルギー・喘息・免疫学会(AAAAI)などの主要な学会は、チメロサールと有害転帰の因果関係を支持するエビデンスはないとしています。

米国(ACIP)の推奨

2025年6月にACIP(米国予防接種諮問委員会)は、小児・成人ともにインフルエンザワクチンはチメロサールを含まない単回投与製剤のみを接種するよう推奨する決定を行いました。これは科学的な有害性のエビデンスに基づくものではなく、予防的な立場からの決定と位置づけられています。

WHOの立場

AAPは、複数回投与用バイアルを用いる世界的なワクチン供給において防腐剤としてチメロサールを使用するというWHOの現行の推奨を引き続き支持しています。これは、開発途上国など医療資源が限られる地域では複数回投与用バイアルが実用上重要であり、チメロサールの安全性に関する明確な有害性エビデンスがないことを踏まえた立場です。

2. 点鼻タイプ(フルミスト®点鼻液)

2024年10月に日本で発売された、鼻にスプレーするタイプの新しいワクチンです。海外では2003年から使われており、既に世界30か国以上で承認されている実績があります。

  • 仕組み:弱毒化した生きたウイルスを鼻の粘膜に噴霧します。体温の低い鼻の中だけで増える性質があり、体の奥(肺など)では増殖しない設計になっています。
  • 効果:血液中の抗体だけでなく、鼻やのどの粘膜表面で働く抗体(分泌型IgA抗体)を作るのが特徴です。この粘膜の抗体は、ウイルスが体に侵入する入り口で食い止める働きがあるため、発症予防に加えて感染そのものを防ぐ効果も期待できます。また、細胞性免疫という別の防御力も働くため、流行株とワクチン株に多少の違いがあっても、ある程度効果が期待できるとされています。
  • 効果の続く期間:約1シーズン(1年近く)という話も聞きますが、研究では一貫した結論はまだ出ていないというのが実情です。
  • 対象年齢:2歳以上19歳未満のお子さん・若い方が対象です(まだ日本では成人の方には使用できません)。
  • 接種回数:これまでワクチンを受けたことのないお子さんも、1シーズンにつき1回の接種で完了します。

接種ができない・注意すべき方
・重い喘息があるお子さんや、現在ゼーゼーしているお子さんは接種できません(症状が落ち着いている軽症の場合は医師にご相談ください)
・重い免疫不全がある方、HIV感染のある方、脾臓のない方
・ステロイドを高用量で継続的に使用している方
・妊娠中の方
・重いゼラチンアレルギーのある方
・アスピリンなどのサリチル酸系のお薬を服用中のお子さん
・接種後1〜2週間程度はウイルスが鼻から出ることがあるため、重い免疫不全のある方と日常的に密接に接触するご家族がいる場合は、事前にご相談ください

  • メリット:注射の痛みがなく、お子さんの心理的な負担が少ないことが大きな利点です。
  • デメリット:発売からまだ時間が経っておらず、効果や持続性などが一貫していないです。
  • 副反応:もっとも多いのは鼻づまり・鼻水で、国内の臨床試験では接種を受けた方の約6割にみられました。そのほか、せき、のどの痛み、微熱などが出ることがありますが、多くは数日で自然に治まります。弱毒とはいえ生ワクチンのため、少ない確率ながらも実際にインフルエンザを発症することもあります。

3. どちらを選べばよいか

比較項目注射タイプ点鼻タイプ(フルミスト®)
対象年齢生後6か月〜2歳〜19歳未満
接種方法皮下注射(日本では※)鼻へのスプレー(1回)
効果の持続約5か月(これもばらつきはあります)3〜12ヶ月程度と株によってばらつきあり
注射の痛みありなし
喘息の対応接種可能重い喘息・喘鳴時は不可

現状ではフルミストの方が優れているという絶対的な証拠はまだなく、研究が多く存在するのは注射の方です。一方で、注射の痛みがないという点においてはフルミストの方が優位で、日本においては1回接種で良いという利便性もあると思います。
どちらのワクチンも、インフルエンザの重症化を防ぐという目的は共通しています。お子さんの体質や持病、これまでの接種歴によって適したワクチンが異なりますので、ご不明な点は診察時にお気軽にご相談ください。

※日本の添付文書ではインフルエンザワクチンの接種方法は皮下注射になっていますが、海外では筋肉注射が多いです。

この記事の監修者

万願寺ファミリークリニック 院長
濵田 春樹

日本プライマリ・ケア連合学会 認定家庭医療専門医・指導医
日本専門医機構認定 総合診療専門医・指導医
日本在宅医療連合学会在宅医療認定専門医

筑波大学卒業。各種研修を経て、2026年8月に万願寺ファミリークリニックを開院。

院長プロフィールはこちら

参考文献

・Luke E Taylor, et al. Vaccines are not associated with autism: an evidence-based meta-analysis of case-control and cohort studies. Vaccine. 2014 Jun 17;32(29):3623-9.
・Anderer S.WHO Analysis Finds No Causal Link Between Vaccines and Autism.The Journal of the American Medical Association. 2026.
・Kelso JM, et al.Adverse Reactions to Vaccines Practice Parameter 2012 Update.The Journal of Allergy and Clinical Immunology. 2012.
・Dórea JG.Low-Dose Thimerosal in Pediatric Vaccines: Adverse Effects in Perspective.Environmental Research. 2017.
・Stuurman AL, et al.Real-World Effectiveness of Live Attenuated Influenza Vaccines (LAIV) and Inactivated Influenza Vaccines (IIV) in Children From 2003 to 2023: A Systematic Literature Review and Network Meta-Analysis.Expert Review of Vaccines. 2025, Dec;24(1):703-725.
・Tong X, Deng Y, Cizmeci D, et al.Distinct functional humoral immune responses are induced after live attenuated and inactivated seasonal influenza vaccination.Journal of Immunology. 2024, Jan 1;212(1):24–34.

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この記事を書いた人

万願寺ファミリークリニック 院長
日本専門医機構認定総合診療専門医・指導医
日本プライマリ・ケア連合学会認定家庭医療専門医・指導医
日本在宅医療連合学会在宅医療認定専門医
日本医師会認定産業医
認知症サポート医、とうきょうオレンジドクター
日本医師会認定健康スポーツ医

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